2003年10月17日
自費出版編集者研修会

丹沢山麓にも収穫の秋がやってきた。仲間と共にいい汗をかいて育てている米やソバももうすぐ刈り取りである。復元した棚田の稲は冷夏の影響を受けてイモチ病が発生したが、何とか持ち直した。いまは斑状態で黄金色の稲穂を垂れ、ソバは白い花が満開である。今週末には稲刈り、天日干しの作業が待っている。

 その棚田を見に9月27日J、自費出版編集者フォーラムのメンバー11名が「朝までトークin丹沢」と称して、山麓の秦野を訪れた。あらめてお見せする何物もないが、せめて豊かな自然景観の中でつづけてきた牛の歩みの夢工房の15年間の舞台を見てもらうのも一興か。

 名古木(ながぬき)の棚田、源実朝御首塚、夢工房のほんとうに小さな仕事場、それから本日最大のイベント(?)アサヒビール足柄工場スーパードライの無料試飲会と、分刻みのスケジュールであった。夕方には箱根塔之沢の歴史の宿・一の湯へ着いた。夕食の後の部屋で果てしなくつづく熱い議論も一升ビンが2本、3本と空いていくうちにいつしか夢うつつの世界へ。

 翌日は一転のんびりスケジュール。箱根湯本の正眼寺、早雲寺を探索して小田原駅近くの料理店・米橋へ。店主こだわりの料理に持ち込みの1本では足らず、次から次へと冷酒の注文。車を運転する身にとって何とも堪え難い(?)真昼の宴ではあった。果たしてどれほどの研修の成果が今後のプロの編集に活かされるのやら覚束ない状態で、ともあれ解散となった。

 ときを同じくして、神奈川新聞の県西地域版の新しいコラム「あしがら抄」(毎週水曜日、9人の筆者)に寄稿することになった。2か月に1回、来年の3月までに3回執筆の予定である。800字という制限の中に想いを込めた文章を書くことのむづかしさを痛感しながら、その全文を次に掲げる。掲載日は10月8日、紙面の主タイトルは「楽しく豊かな生活を」。夢工房の編集・出版のバックグラウンドとしての地域との関わりが少しでもご理解いただければ幸いである。

スローカルチャーのすすめ

 この夏、各地で収穫間近なサクランボ、ブドウなどの果物が多量に一夜にして忽然と消えるという事件が頻発した。収穫の秋になって新米にも波及し、中井町の畑では約百sのネギが盗まれた。

 ゆるやかな季節の巡りの中、先祖代々の田畑で丹精込めた果樹や農産物が、なぜ盗みの対象になったのか。自ら育てた農産物を収穫するという農家の人たちの喜び。その美味しいとこ取りが一連の「畑泥棒」である。カロリーベースの食料自給率五〇l以下の日本の真夏の夜の悪夢は、いびつな飽食社会の一断面を見る思いがする。

 二十一世紀は、環境と農業の世紀とも言われ、地球環境や食糧問題が問われている。神奈川の緑の砦・丹沢も、大都市の経済活動と私たちの暮らしの影響を受けて危機に瀕している。とはいえ丹沢の緑が育む豊かな自然は、私たちに安らぎを与え、天然の濾過装置を経た恵みは生命の水となり、大地を潤し日々の食べ物を生み出す。

 効率と便利さを求めて止まない私たちの欲望は暮らしの中に蔓延し、食文化の変質をもたらした。生産の担い手である農家の後継者は激減し、いま丹沢山麓には雑草におおわれた広大な遊休農地がある。その一方で、市民農園や定年帰農が人気である。都市に住む市民の間にも、形はいびつでも安全で安心な食べ物を手に入れたいという欲求がある。

 私たちはいま、仲間と共に山麓の農家の協力を得て里山の雑木林の管理を行い、棚田を復元して米をつくり、ソバ、小麦の栽培に励んでいる。地域のNPOや都市の市民、農家、行政との連携により、生命の源である食べ物づくりの新しい仕組みができないだろうか。いい汗をかいて大地を耕し、仲間と語らいながらの身の丈にあった山麓での食べ物づくりは、多様な生き物たちの棲息環境の再生にもつながる。

 スローフードをローカルにアグリカルチャーで創り出そう。略して「スローカルチャー」は、私たちの生活文化をゆっくり楽しく豊かにしてくれると実感している。