2005年5月11日
詩集『レヴィンの系譜』出版記念会のこと 


 連休の谷間の5月2日、千葉県東庄町の割烹旅館「鯉屋」で開催された出版記念会に出席した。120人余り参加したこの会は、実は一人の青年を偲ぶ会でもあった。

 2年前のこの日、32tトラックの無謀運転による交通事故に巻き込まれ、時間がとまった26歳の青春。高木昌宣(まさよし)さんは、自身のホームページに150編余りの詩やエッセイを書き記していた。遺影の写真を探すために息子さんの部屋に入った両親は、残されたこれらの作品を前にして、ただただ涙した。

 縁あって昨年の3月、私はファイルにつづられた詩とエッセイにめぐり合った。さりげない、日常の言葉にこめられた優しさと力強さに圧倒された。恋、愛、友達、家族、人生、仕事などについて書かれたそれらの作品群は、インターネットという情報ツールによって表現されることで、独自の読者を得ていたのだろう。青春真っただ中の若者のピュアな優しさとエネルギーに満ちていた。

 かけがえのない息子さんを失ったご両親、大好きなあんちゃんと会えなくなった妹さんにお会いするために、東庄町出身の友人の新聞記者と昌宣さんの自宅を訪れた。利根川沿いに広がる肥沃な北総台地。緑濃いのどかな田園風景、この自然と暮らしの中ではぐくまれた言葉と優しさと力強さだった。

 これらの作品を何とか本にしたいというご家族の想いと昌宣さんの死を受け入れることの辛さ切なさが相克していた。1枚の写真を選ぶことも、1編の詩を読み通すこともままならなかった。ご家族の想いに寄り添いながらの編集の取り組みが始まった。

 遅々とした歩みであった。季節はめぐり、秋の足音、冬の訪れ、芽吹きの春を迎える中で、妹さんの電話越しの言葉に救われた。「あんちゃんと一緒に本を創っているんだなあって思えるようになりました」

 ご両親と妹さん、それに昌宣さんにコンピュータを手ほどきしてくれた従兄さんが、夢工房を訪れてくれた。本づくりという2度目の生みの苦しみにご家族が立ち向かい、それを乗り越えてくれたと思えた。

 詩集『レヴィンの系譜』は2冊同時に刊行した。詩の中から取った書名は、①『僕は君の月に…』(定価1575円)、②『僕がたしかにそこに在(い)たこと』(定価2100円)。

 詩人の城戸朱理さんが腰帯に推薦文を寄せてくれた。

 「これはピュアな想いが、そのまま言葉(リリック)になったもの。世界や社会への反抗(プロテスト)ではなく、見知らぬ誰かに手を差しのべるように―。優しく、ナイーブな魂が、ここには柔らかく息づいている。その「強さ」だけは、誰にも奪うことはできない。」

 幸いなことに、これまでに東京新聞、朝日新聞、毎日新聞、千葉日報、神奈川新聞、常総新聞などに取り上げられ、また、インターネットでも本の紹介がなされ様々な反響が出始めている。

 『レヴィンの系譜』の中に、昌宣さんは、今に生きる私たちへのメッセージと想いを込めてたしかに生きつづけている。