2005年9月13日
丹沢山麓を耕す!


 9月3日の午後、相模湾の照り返しの暑さが残る湘南・藤沢まで電車を乗り継いだ。藤沢市市民活動推進センターで、「丹沢山麓を耕す―棚田の復元と本づくり―」と題して、1時間半ほどトークをする機会があった。NPO法人ブライト・ヒューマンネットワークス主催「ブライト・サロン」の月例会である。このトークの会も数えて44回、様々な分野で活躍している人々が話題を提供している。縁あって私にお鉢が回ってきた。実は6月にお話しする予定が、首都圏出版人懇談会の総会と重なって延期してもらった。果たして延期してまで聴いてもらえる話かどうか心もとない。

 ちなみにブライト・サロンのあゆみは、2001年9月に第1回が開催されて以降、毎年8月は休みで、ちょうど5周年の巡り合わせになった。会員は東京、秦野、湘南地域と広範囲で、お見受けしたところ第2の人生を歩まれている方が大半。この日の参加者は12名ほどであった。

 横浜から丹沢のふもとに移り住んで以来の地域における市民活動と夢工房の本づくりの話である。いずれも地域に根を下ろして暮らしている人々とともに重ねた20年近い歳月である。横浜から秦野へ来て感じた水の美味しさ、荒地を耕して作ったサツマイモの甘さ、となりの畑を耕すプロの農家の人の一言に「うーん」と唸ったことも。それにしても土を耕すとなぜか安心感に満たされるのは、出身の米どころ長岡の「百姓」の血のせいかも知れない。

 NPO法人自然塾丹沢ドン会で名古木の棚田を復元した。まさに開墾とも言える作業を大勢の会員と丹沢自然塾に集まった都市の団塊世代の人たちが、いい汗をかいて成し遂げた。4年かけて復元した棚田は2反半あまり。丹沢が育んでくれた水、大地の力、人の手と工夫で棚田の米づくりはなされる。

 本づくりも米づくりに通じる。アグリカルチャーとカルチャーの根は大地。地域にこだわり、地域で暮らすことによって見えてくるものの多さ。縄をなうように人と人を結び、撚りあげることで、地域のネットワークはできた。地域のテーマを探し、書き手にめぐり合い、一冊の本を編み上げる。安全・安心な食べ物づくりと本づくりの醍醐味を、丹沢山麓を耕すことでなし得る喜びはこの上ない。

 本づくりはいま、インターネットという情報ツールを得ることで丹沢山麓という地域を越えてさらに広がった。かつて住んだことのある横浜市戸塚区のリタイヤーされたお二人のそれぞれの歌集発行のお手伝いを立て続けにした。横須賀の郷土史研究家の3冊目の本づくりは、いま著者校正の真っ最中である。小田原の市井の郷土史愛好家の地域再発見の本づくりも3冊目の打ち合わせがまもなく始まろうとしている。書き手に寄り添いながら、プロの編集の技を最大限活かすことで、この世に二つとない本を生み出すのである。

 地域を深く耕し、地域の人々の想いを編む編集者は、天職だと感じるこの頃である。